2024年3月5日火曜日

ドイツのニック その1

先日、遅めの時間に外人の若い青年3人が来て、その3人が最後のお客さんとなり後片付けしながら飲んだり喋ったりしてワイワイしてた。冷酒が飲みたいと言うからグラスに注ぐと、外人の青年はメロンの香りがするやらピーチのテイストとか言い、なかなかのベテランの感想を語り出し、俺もいろいろ学んだ。日本酒をワイン的にとらえているんやなと。聞くと彼らはドイツのどこかの2つ星のレストランで修行中だと言う。するとその青年の1人がこう切り出した。

「お願いです。仕込みを見たいです」

なるほど。彼は日本の京都で一番狭い餃子屋の仕込みが見たい。そして料理を学びたいのだと。もし、これが相手が日本人やったら絶対断るが、相手はドイツやろ。ドイツならパクりようがないし、京都に来て、やっぱりいい思い出を作って欲しい。出来るなら生涯忘れられないメモリーをドイツに持って帰って欲しい。俺が逆の立場なら、例えばイタリアのシシリー島の居酒屋の厨房で、昼過ぎからお店の仕込みを厨房で見れたら一生の思い出になる。そう思うとこう即答した。

「1PM スタート アイ メイク 餃子。ユー ジャストウォッチ アンド サムタイム ヘルプ ミー マイジョブ オールライト?」

もちろんと青年は答えた。まあ、来ても来なくてもどっちでもいい。むしろ来る確率は低いやろ。旅行者はあちこち忙しい。

ところが本当にジャスト1PMに彼は来た。サンキュー、なんでも手伝いますと。早速彼にエプロンを渡して俺はいつもの仕込みを始めつたない英語で事細かく仕込みの作業の意味を伝えて彼はメモしていた。俺が手を止め説明すると手を後ろに組み姿勢を正す。洗い物はすぐ洗う。なかなかやるやないか。

三時間はすぐ過ぎて4時になり、短い修行は終わった。彼はありがとうと感謝して、とても勉強になりましたと言う。俺は「いい思い出なればそれでいい。僕もユーからたくさん学びました。こっちがサンキューやで」と伝えた。

名前は?

ニックです。

ニックが俺に聞いてきた。仕事が終われば一緒にBARでも行きたいと。ところが俺はBARには行かないよ。仕事が終わると銭湯に行く。すまんなーと断った。

ニック「それは、なんですか」

京都にはノスタルジックな公衆浴場があり、そこにはサウナ、水風呂、電気風呂があって天国みたいな風呂がある。俺はBARより銭湯やのよと伝えた。 

ニック、記念に写真を撮ろうと俺は提案した。

外に出て、お店の看板の前で一枚撮ろう。

俺も思い出の一枚になり、おそらくニックもいい日本の思い出になったと思う。