2023年4月11日火曜日

一枚の写真

12時30がチケットの有効時間。それに間に合うよう数本滑り、時間ギリギリで最後に短いリフトに乗り、そこからスカイラインコースで下山する。この旅も、思い返せば月曜の夜に仕事を終えて家に帰り近所の銭湯で熱い湯で「京都で餃子を焼く俺」を過去に置き去り、その銭湯から野沢温泉紀行が始まったのだ。それからたった36時間しか経過してないのに、京都を離れたのが遠い昔に感じる。それが今、ここ野沢温泉に来て目に入る景色は全て真っ白い雪景色。その雪景色が当たり前に見えているが、それもこのラストランで全てが終わる。

短いリフトを降りた目の前から見える眺めはまさに絶景で遠くの雪山が薄い春霞のせいか幻想的なのか、爽やかな春の訪れを感じさせてるのか。とにかく美しい景色なので僕はボードの板を外してたくさん写真を撮っていた。そうすると、男の人の声で「エキスキューズ、プリーズテイクフォト」と話しかけられた。振り返ると1人のサングラスをかけたおじさんが俺に話しかけていた。俺は「あー大丈夫ですよ」と、言うとそのおじさんは、僕の事を外人の人かと思いました。すいませんが一枚、この景色を背景に写真を一枚お願いしたいですと言う。もちろん喜んでと写真を撮ってあげた。元々僕は写真を撮るのは大好きなので、俺のできる範囲で何枚かいい構図を考えて、おじさんの携帯で写真を撮ってあげ、「これなんか、いいんとちゃいますか」と撮った写真を見せた。するとサングラスのおじさんは、たいそう喜んだ様子で「ありがとう」と言う。その後、驚いた言葉が出てきた。「これはいいなぁ。遺影にするわ」

野沢温泉の絶景の雪山を眼下に、遺影というフレーズのアンバランスさに違和感を一瞬感じた。雪山に遺影って。だがそれより俺が撮った写真の出来栄えを見て「遺影にする」とは俺は最高に嬉しくなり、「おじさん、遺影にするんやったらもっとええ写真撮るわ。サングラス取って」と言い俺は最高の遺影を何枚か頑張って撮った。おじさん、これなんかええんとちゃいます?

そうすると、おじさんは優しい笑顔で「ありがとう、これはいいわ。ありがとう、ありがとう」と俺の写真で喜んでくれた。おじさん、一枚、一緒に撮ろと記念撮影した。では、と別れを告げ僕は下山コースを滑り降りた。

遺影の事を考えながら滑りおりた。おじさんは家に帰ると家族に、これを遺影に使ってくれと言うのか。本当に遺影にするのか。もちろん長生きして、この写真は若すぎると使えなくなるのを、どこの誰だか知らないが使わないことを願う。が、本当に使ってくれたら少し嬉しいかな。もう永遠に会えない人の遺影を撮る。この思い出は生涯忘れることはない不思議な出逢いだった。俺的にはなぜか幸せを与えてくれた出来事だった。

旅の最後に、最高に美しい思い出に出会える事になった。

俺はそう思う。