2024年8月27日火曜日

台風10号 その2 別館牡丹園

新快速に乗り神戸へ。台風がきよる平日にもかかわらず京都は旅行者でごった返していた。神戸に帰る道中は福田和子の獄中手記を読んでいたが気分が重たくなり尼崎を通過したあたりで本を閉じた。元町駅に着いてお楽しみの昼ごはんはどこにしよう。元町駅南スグの「金時食堂」か、NHK西の「良友酒家」か、元町3丁目の広東中華「香美園」かトンカツの「とんかつ太郎」か別館牡丹園。3丁目まで歩くのは少し遠い。せっかく神戸に帰ったんやからここは、別館のハードの焼きそばで神戸の味を味わおう。神戸の洒落た遊び人は「別館」と言えば牡丹園をさす。別館の大将はおるんかいなと思いドアを開けた。

別館に入るとレジ前に必ず女将さんが鎮座している。女将さんが俺を見るなり「あらー帰ってきたん」と迎えてくれ「焼きそば、食べにきたんよ。そこ座るわ」とテーブルに座り「五目焼きそばのハード」を頼んだ。焼きそばが来るまでスマホでも触ってと思った瞬間「お前、今帰って来たんか」と大将が俺の対面にドンと座り、焼きそばを食べ終わるまでずーっと話しをして幸せな時間を過ごす事が出来た。なぜ幸せな時間だったかを書こう。

それは、やはり別館と言えば神戸広東中華の要であり別館以上はなく全てにおいて揺るぎないなにかが別館にある。昔、大将からこんな話しを聞いた。「泰三君、俺は親父が作った味を変えない。これと戦っているんや。味を変えないのもなかなか大変やで。つい色気が出てまうからな」と教えてくれた。そしてこう言った。うちの店に新しい味を求めてくる人はおらんのや。

この話しは100%ではないと思う。大将も絶対チャレンジしてきたのも知ってるし3代目も、やはりチャレンジし続けているのも背中でわかるが、先代が作った味に最高の尊敬と感謝を絶対忘れたらアカンのや、という哲学を言っているのだ。その哲学があまりにもかっこいい。それを熱く語る大将が大好きだ。ここで一つ俺の自慢話を言うと、随分と昔の話になるが俺は元町おる時にメニューに焼飯があった。それを知ってた大将は、俺が別館に行った時「お前だけに炒飯の作り方教えたるわ」と言い放ち「厨房に入れ。別館の厨房に他人を入れるん、お前だけや」と言って俺は天にも昇る気持ちで厨房に入ると3代目が「うちはこないして作るんです」と全ての過程を見せてくれた。

「お前、味見して美味いやつを出しとるやろ。そやからアカンねん。味見して薄い、それでGOや。0.7の味で仕上げ、焼飯を食べ終わった時点で1にするんや」

こんな俺みたいな小僧になんで、こないにしてくれるか。それは大将が俺のオカンに恩があるからやと思う。俺の母は別館が大好きだった。母は2代目を大切にしていた。その恩を返す、そんな律儀な大将が大好きだ。

今日の大将の教えは「泰三よ、安売りは絶対したらあかんぞ。もっと自信持って価格をつけろ」俺はその意味を食べ終わってからいろいろ考えた。いろいろ考えた結果2つの意味があることがわかったよ。

一つは「神戸の味を安売りすな」という神戸愛と、お金をもらうんやからちゃんと仕事せいよ。この2つが見えてきた。

五目焼きそばを食べ、今日はありがとうございましたと伝え俺は大将に「大将、写真撮ろう」とお願いしたら、よっしゃと一枚撮った。

仲良く並んで撮った一枚だが、俺の左肩は緊張しているのがわかるだろか。