夕方の5時あたりに大黒湯に着いた。明るいうちに大黒湯に行ける事はまずないから日中に見る大黒湯は新鮮だった。深夜、赤いネオンだけが怪しく光る大黒湯もいいがこうやってまだ日が落ちる前の大黒湯はどんな時間が流れているのだろう。
珍しくこんな時間に俺が現れると番台の女将さんは「こんな時間にどないしはったん」と聞くから「昼過ぎにお店に着いだけど、やる気なくて大黒湯に来てゆっくり浸かることにしたわ。忙しくて全然来れてなかったから疲れが溜まって働く気あらへん」と伝えたら、人間病気したら終わりやと一言。そりゃそうやと納得し俺は思う存分ぬくもる事にした。いつもなら夜が遅いので暖簾をしまう時間を逆算して温もらなアカンが今日はまだ夕方5時過ぎ。時計を見ないで大黒湯を満喫出来るぞ。昭和の時間が止まったままのレトロな浴室に入ると天井の大きな窓から柔らかい夕日が差し込む。湯煙に夕方の光が差しその湯煙が白く反射し美しい。体を洗い熱い湯船に浸かる。そして天井の光をずーっと眺めていた。湯船が熱い大黒湯。その熱い湯が体に蓄積された疲労物質を溶かしてくれている。
あー、休んでよかったったなぁと熱い湯船に浸かり無意識に目を閉じた。そうすると、熱い湯に包まれた俺の体は湯船と一つになり、俺だけの世界の中に封鎖され、それがたまらなく気持ちいい。目を閉じ聞こえるのは風呂桶が床に当たる音と湯船に落ちる蛇口から出る湯の音だけ。それからサウナ5回と同じ数の水風呂、そして電気風呂とジャグジーと激アツの湯船を繰り返し約2時間ほど温もり湯上がりに20円の昭和マッサージ機を6回、肩腰首を攻めまくる。
女将さんに、今日はおーきにやでと伝え暖簾を出ると赤い銭湯のネオンが静かに輝いていた。