私は鰻と言えば元町商店街3丁目にある青葉の鰻以外ほぼ食べたことはない。それは母方の祖母が元町商店街の5丁目で喫茶店をしていたので鰻と言えば青葉で育った。小学生の頃、母が三宮の鰻屋に連れて行ってくれたが私は口に合わず一口食べていらないと残した事を母はよく自慢げにこう話したものだった。「この子は青葉の鰻しか食べへんのよ」と。それはまるで私の口が他人より肥えて味覚のレベルが高いと自慢していた。事実、私は幼少の頃から死ぬ前になにが食べたいと言えば鰻と言っていたし、それは56になっている今でも死ぬ前に一口でいいから鰻が食べたい。それも青葉の鰻だ。
青葉の鰻の特徴は肉厚の身がふっくらと甘くしっとりとしてガツンと炭の香りがまとわりついている。タレは意外とサラとしており濃い醤油のタレではないから最後までペースを落とさず箸が進むのだ。山椒をふりかけ箸休めに漬物(ナスの漬物が美味い)をつまみ、そしてまた鰻を食べる。蒲焼か別れか悩む。結論から言えばどちらでもいいのだ。私はコインを手に入れ裏表で決める。それでいい。青葉は三宮店と元町店の2軒あるが私は元町育ちなのでほぼ元町3丁目のほうに行く。女将も焼き手の大将も家族的な関係なので親戚の家に行くような付き合いだ。
そんな青葉の鰻を先日、高校の同級生のツレが差し入れにもってきてくれた。そのツレは武蔵美出身の元ホンダのカーデザイナーやらパナソニックのアドバイザーやら不思議なヤツでバッカスなツレ。まさか青葉の鰻を差し入れるとは。
翌日、蒲焼を小分けにしてレンヂで温め熱々をいただいた。翌日の蒲焼だったが炭の香りがまだしっかりと鼻から抜け、これは青葉の鰻だと口に含んだ瞬間、確信したのだった。